「風花の舞」終わりに
        
 詰将棋用語は専門的です。しかも統一性に乏しい欠点があります。「舞シリーズ」は条件作作品集と作者は呼びますが、必ずしも根拠がありません。「風花の舞」は特に条件の説明が困難です。
 ここでは先に条件作について考えてみます。三木宗太氏は「江戸詰将棋考」の中で分類を行っています。しかし用語が特殊です。「ここで、趣向型詰将棋という用語について若干の説明をしておきたい。一部には、趣向という言葉を連取り趣向とか鋸引趣向といったように、いわゆる手筋に対してのみ狭義に使用する向きもあるが、ここでは最も広い意味に解釈し、単なる難解さ、謎解きの問題としてではなく、何らかの遊び、工夫、味付けなどを施した詰将棋の分類を総て趣向型と呼ぶことにする。」。
 趣向の本来の意味からは定義してからの論考で問題はないですが、現在では「趣向詰」「趣向作」という言葉は一部ではなく、広く用いられています。詰将棋用語というべきでしょう。「趣向型」という言葉は間違いやすく広く使用されていません。また、定義では「手筋」と呼んでいる内容が具体的内容では「手順」になり、「手筋」という言葉は別の意味に使用されています。いささか混乱がみられます。また、この分類で江戸時代の詰将棋を分類する作業が続きますが、具体例では説明していながら分類で省いてしまった内容があります。
 田中至氏は「曲詰創作と楽しみ方 詰将棋考」の曲詰の条件の章で、「看寿の図巧(中略)の第1番は(中略)によって、趣向作とよばれているが、一般に趣向作とは、本作のように内容(詰め手順)の趣向性(妙味)によっているものである。(中略)創作上にある種の制約が加えられた作品が、条件作とよばれている。すなわち、内容上の趣向が趣向作といわれ、創作上の制約が条件作というわけである。」以下具体的に分類にはいるが目的が曲詰の制約への繋ぎであるので、三木氏よりは内容は中途半端です。
 私は田中氏の定義から「条件作」という用語を使用しています。ただし厳密には異なる部分もあります。両者ともに「軌跡」も含めています。田中氏は「ある駒の軌跡に制約を加える方法もある。この場合、軌跡がくりかえされるときには、『趣向性』も兼ねることになる。」と述べています。
 両者の分類をまとめて用語を「制約」「条件」に統一すると次の様になります。
(1)配図に制約
  (あ)盤面条件
    (A)盤面使用駒種限定条件 裸王・飛角図式・一色図式
    (B)盤面使用駒数限定条件 全駒図式・全小駒図式・大小詰
    (C)盤面勢力限定条件   無仕掛図式・無防備図式
    (D)初形条件       盤面曲詰・実戦初形
  (い)持駒条件         一色持駒・七種持駒
  (う)盤面持駒併合条件     全駒使用・飛角使用・八種一式使用
                  小駒図式・貧乏図式
(2)詰上がりの制約
  (あ)あぶり出し条件      曲詰
  (い)終局条件         四桂詰・煙詰
(3)プロセスの制約
  (あ)軌跡条件         回転・鋸引・往復・周辺巡り
  (い)繰返し条件        趣向作
  (う)使用駒手筋併合条件    七種合・六種不成
 
 ここで、本第10集のテーマを初めに描いた言葉で言えば、「短編趣向作」になります。現実には不可能なテーマですが、あまり細部にこだわらなければ作者のイメージは表現可能ではないかと思ったのが、「はじめに」にも書いた「変拍子」との出会いです。2001年発行の「極光21」の第93番の解説でより具体的にその特殊性が説明されています。
 
 「舞シリーズ」の各集が上記のどれに相当するかをまとめてみます。ただし、複合条件を多く含みますので代表的なものです。
第1集 小駒の舞 (1)(う)
第2集 歩兵の舞 (1)(あ)(A)
第3集 不成の舞  ??(3)(う)??
第4集 四葉の舞 (1)(い)
第5集 弧王の舞 (1)(あ)(C)
第6集 積木の舞 (1)(あ)(D)
第7集 限打の舞  ??(3)(う)
第8集 玉座の舞  ??(3)(あ)??
第9集 犠合の舞  ??(3)(う)??
第10集 風花の舞  ??(3)(い)
 
 第10集は両者の定義では異なりますが、あえてはめこみました。しかし、3集、7集、8集、9集は当てはまり難いです。
 これについては、上記定義が「作品の分類」であって「作品集の分類」ではない事に原因があります。これが初めに述べた、分類から省いてしまった内容です。三木氏の本にも記載があり、第4集「四葉の舞」の北村憲一氏の序文にもある「作品集の中の作品のシリーズ化」が個々の作品のみの分類では条件から省かれてしまう事に原因があります。また北村氏が作品集の原点とする「玉の全格配置」も作品集のみの条件です。第8集は「不動玉」という玉の軌跡なしの条件に「玉の全格配置」を掛け合わせたものです。その結果、「詰上がりが全格配置」「途中も全格配置」が成立しました。また、同一手筋の作品集(不成、限打、犠牲合(中合、捨合)を全局に含む作品集)が個別作の条件分類に該当しないのも当然といえます。
 ただし先にも述べたように、三木氏も北村氏と同様に象戯手鑑の持駒シリーズに言及していますので、単に作品集の分類は無数に可能なために行っていなかっただけと思います。私が条件作の作品集の連作を考えたのも、このあたりにまだまだ未踏の分野が残っていると考えたからです。
 色々な見方があると思いますが、私が前例のない作品集や条件や複合条件に拘り続けたのは、作品集として見ると未踏の分野がまだまだ多い事を実作で示したかった事につきます。
 結果的に、3桁の一番少ない百番集に拘り、2桁の一番少ない十集で区切りを付けるのも私らしいと思っています。
 
                           田原 宏
 
参考
 極光              上田吉一著 昭和56年 将棋天国社
 曲詰創作と楽しみ方 詰将棋考  田中至著  昭和58年 弘文出版
 江戸詰将棋考          三木宗太著 昭和62年 詰将棋研究会
 四葉の舞            田原宏著 北村憲一序文 平成11年
 極光21             上田吉一著 2001年  河出書房新社
 


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