古書日記(2008/08)

古書日記『久生十蘭全集』

日本では本当の意味の「全集」はほとんどありません。その理由は、・販売政策上である程度の集成を全集と題名をつけて出版する。 ・作者の完全な書誌がない場合が多くて未収録や不明部分がかなり生じてしまう。・全集を出す条件が揃う作家がなかなかいない。

国書刊行会で「日影丈吉全集」が出たのは、その細部の評価はまだですが画期的でしょう。その後を追って、「久生十蘭全集」が 2008秋から出版予定です。1冊1万円で10巻に近いですから、完全にマニア向けです。

しかしこの作者は、謎の部分が多く・活躍時代でも現代でも異色の作家であり・現在でも作品は色褪せておらず・この作家の影響を 受けた作家や分野が非常に多い・多くのペンネームと多数の分野と文体を持つ、等個別には読み切れずかつ研究も出来にくいです。

このような作家の全集は非常にありがたいのですが、ただ読む方が「日影丈吉全集」の時の経験からは、テキスト的に揃うといつでも 読める安心感と特別に高価で入手困難な作品も含まれると、逆に読まずに並べておく傾向が起きる事が分かりました。

人間とは不思議な性格です。(2008/08/14)

古書日記『酒井嘉七探偵小説選』

論創社という出版社から、主に戦前作家の作品集が出ています。はっきり言って戦前は、紙数制限が厳しくまた現在のミステリ 手法から見ると技術的に不満のある作品が主です。

勿論、優れた作品もありますがそれらは既にアンソロジー等で紹介されています。それからもれた作品をも集めた所に資料的な 意味はありますが、拾遺的な面が多く全体にレベルは低いです。

酒井嘉七は、「探偵法13号」という短編集が唯一存在します。これも希書でたまにオークションやカタログに見かけますが 非常に高価です。

今回全集が出たわけですが、やはり既にアンソロジー等で紹介されている作品がベストでそれ以外にはあまり良い作品はなさそう です。

私が酒井嘉七に興味があるのは、3作の歌舞伎ものがあるからです。その後、戸板康二という専門作家を経て、現在は近藤史恵 と一部は北森鴻に受け継がれています。細いつなぎですが、日本独特の文化を背景にした作品ジャンルの継続に期待します。 (2008/08/22)

古書日記『氷 :アンナ・カヴァン』

1980年頃に多く出版されて今は絶版の「サンリオSF文庫」があります。最近、時々復刊されています。

少し前に、ピーター・デキンソン:「キングとジョーカー」が文庫で復刊されました。

今回復刊されたのが、アンナ・カヴァンの「氷」です。本型は違いますが、訳者はおなじです。

改稿訳との事です。個人的には、「サンリオSF文庫」が未読で保有していたので読みました。

積読本がまだまだ多数で、如何に無茶な買い方をしたのか今は不思議です。(2008/08/30)