古書日記(2008/11)

古書日記『作者の改稿』

出版には校正という工程があります。同時に作者の改稿という作業が入る事があります。

改稿には、細部の修正的な事も多いですが場合によっては、大きく変更される場合があります。その場合は、改稿という事が 全面に出される事もありますが、末尾にわずかだけ書かれている事もあります。そして、何も記載されていない事もあります。

海外作品の翻訳では、どの本を定本として訳したか明記される事もありますが、国内本でも全集や詳細な解説がある再刊では どの出版本を再刊したのかの記載もあります。

ひとつの道筋として、雑誌掲載>単行本>新書版>文庫版>版権変更の再刊というルートがあります。多くの本が一度出版されたら 再刊されない中で幸運な本ですが、個々に校正と改稿が行われる事が多いので内容は微妙に異なります。

昔は活字組原板の再利用という再刊がかなりありますが、コンピュータ化された後は容易に改稿できるので細部の内容は変更 されている事が多いです。(2008/11/01)

古書日記『著者名の誤植』

本には誤植がつきものです。コンピュータを使用するようになってからは容易に修正できるようになりましたが、それ以前は 校正も修正も不十分なものが多くみかけられます。

そして改版や増刷の機会がないと修正の可能性もありません。その最大は雑誌です。

アンソロジーや作者と連絡が取れない時は、未確認のままで繰り返し掲載する事もありえます。

そして意外なのが、著者名の誤植です。そして著者が、気がついてもそのまま利用する時もあります。1回のみを含めて、本人の 説明がないと気づかれません。現実は、そのまま使用されており後のエピソードになっているようです。

「本田緒生」が「木田緒生」の誤植ペンネームである事は本人が述べています。本名が北尾から「きたおせい」としたのですから。

「青池研吉」が「青地研吉」の誤植なのは本人しかわかりません。すんでいる近くの地名のようです。(2008/11/08)

古書日記『短編・中編の長編化』

長編作のなかには、最初は短編・中編で発表されてその後にアイデアや内容が増えて長編に改稿される場合がかなり見られます。

短編はアイデアで書けますが、それが短編向きでない場合がかなりあります。そして同様に、長編に出来るアイデアが次々と思いつく とは限りません。

その結果、短編等に全面加筆で長編が生まれます。その後の小さな加筆の有無は別にすると、長編が完成形として本として生き残る事 になります。

多くの作者は、全面加筆前の短編等は以降は短編集などには、掲載しないです。

でも原型の作品も読みたいという人には、短編集か掲載雑誌を古書で探すしか方法はありません。

最近は、このような隠れてしまった原型作品を掘り起こしてアンソロジーや短編集にする場合もあります。幻の・・・等の言葉が 添えられます。また希に長編が短くなる場合もありますがたぶん少数派でしょう。(2008/11/15)

古書日記『思い込みの絶版』

規模の大きな出版社は絶版本は廃棄処分します。しかし、小さな出版社を中心に絶版・廃棄を行わない所もあります。

読む本・触れる本の殆どは規模の大きな出版社の本で絶版がつきまといます。これに慣れると、本は絶版になると思い込みます。

本の中には長年にわたり細々と売り続けられて、売り切れまで廃棄されない本もあります。ネットの普及で探せば見つかる場合も ありますが、見つからないからと言って絶版とは限りません。

多くの読者が絶版と思い古書を高値で捜しはじめても、実は出版社に注文すれば簡単に新刊で購入できたという事があります。

特にネット時代でも、ネットの大きな書店で検索して見つからない場合が盲点になるでしょう。

本を読むより探すのが趣味の人は別ですが、本(テキスト)を探す人は絶版情報と復刊情報の入手は必須です。(2008/11/22)

古書日記『純初版・準初版』

初版本のコレクターは存在しますが、古い本では純粋の初版が確定しにくい場合があります。「純初版」とは本当に最初に出版された 本で本体のみならず、カバー・帯・箱・投げ込み月報類などが全て揃っている事をしめします。

古い本でなくても、全てが揃ってしかも初回配本というのは現在でもなかなか残り難いです。本体を除けば、マニアックなコレクション 的な意味合いがあります。

帯はしばしば変わります。出版社から配本される時や返品本の再出荷時に欠落したり、受賞歴やドラマ化があれば変わる時もあります。 帯の異なるものを集める・調査するマニアも存在します。

カバーは原則は変わりませんが、たまには初回配本で問題があると変更される事もあるようです。通常は再版時になる事が多いでしょう。 逆に言えば、初回配本が返品になり再出荷する時にカバーが痛んでおれば新しいものに変えます。全く同じ場合は、後での区別はつかないと いえるでしょう。

事実関係は未確認ですが、最近ではベストセラーの東野圭吾「容疑者Xの献身」の純初版のカバーの材質に問題があり、触るだけで指紋 が残りました。すぐに変更されましたが、再版以降に変わったのか初版中に変更されたのかは不明です。純初版は外観は汚れたカバーに 見えますので分かります。

出版本の中で増刷されるのは極一部ですので、古書も通常は初版が多いですが、ベストセラーは逆に増刷が増えます。同時に、完全な 純初版はマニアのコレクションになりますので、古書として出回る事は極めて希です。(2008/11/29)