古書日記(2020/05)

「仁木悦子「赤い猫」」

仁木悦子は作品の復刊率が高い作家だ。

作品集「赤い猫」は短篇5作からなる1984年の出版だ。

日本推理作家協会賞短篇賞作の「赤い猫」を始め、個々にもアンソロジーに採られる短篇を多く含む。

その理由として、「赤い猫」以外の5作はレギュラー探偵役が登場する作品が集められている事がある。

そして、2018年に3作を加えて再編集で復刊された。

仁木作品のイメージの猫がキーワードの「赤い猫」に加えて、初期の探偵役の仁木兄妹が後に別々に活躍する作品が収録される。

仁木雄太郎が探偵の「青い香炉」、学生・仁木悦子が結婚して浅田悦子として探偵役の「子をとろ子とろ」と「うさぎさんは病気」が載る。

新聞記者・吉村駿作が探偵の「乳色の朝」と、私立探偵・三影潤が探偵の「白い部屋」も載る。

仁木作品の文庫復刊は。角川文庫では初出は無視して再編集された事で混乱があったが、本作は初出に追加する形だ。

(2020/05/03)

「都筑道夫「捕物帳もどき」」

都筑道夫「捕物帳もどき」は1982年出版された。

「名探偵もどき」「捕物帳もどき」「チャンバラもどき」のパロディ3部作の1作だが、2020年に後者2冊が合本で復刊された。

江戸末期の吉原を舞台にして、若旦那が捕物名人に憧れてそれになりきると、親に頼まれた幇間が手下役になり事件を調べる。

「平次」「右門」「佐七」「若さま」「顎十郎」「半七」の6人だ、5大捕物帳に都筑好みの「顎十郎」を加えている。

異なる6作品と主人公のパロディを、1人の主人公コンビで行うのでハイブリッドの組み立てになる。

原作が江戸時代の捕物帳であり、明治に語り継ぐスタイルもある。

読者的には時代感覚が奇妙に麻痺するが、そこも計算済みかもしれない。

若旦那の道楽という基本設定は、ミステリの遊び精神とも合うのかもしれない。

パロディが多いミステリの面白さが、本作にも多数見える。

(2020/05/13)

「麗羅「死者の柩を揺り動かすな」」

麗羅は1973年から歴史ミステリや犯罪小説や経済ミステリを発表した。

作品はミステリかどうかは微妙な境界領域が多く、全体の作品数も多くはないので評価は難しい作家だ。

代表作はサントリーミステリ大賞読者賞の「桜子は帰って来たか」でこれは古書では流通は多いが、他は入手困難だ。

出身の韓国の歴史とそこを舞台にした作品が多く、特徴の一つだ。

第二次世界大戦やその後の朝鮮戦争と、その後の韓国と日本を舞台と背景にした作品が多い。

「死者の柩を揺り動かすな」は第二次世界大戦直後の仙台周辺と東京から約30年後までを描き、韓国では無いが時代と題材は共通点がある。

麗羅作品は、文庫化復刊された作品も幾つかあるが、いずれも古書でも見かけにくくなっている。

歴史ものは背景の知識がないと戸惑う、現時点では経済犯罪を描いた作品の方が歴史ものよりは読みやすいかもしれない。

(2020/05/23)