古書日記(2020/06)

「久生十蘭「十字街」」

久生十蘭の作品は1970年の三一書房判の全集があったが内容は選集だった、2011年に国書刊行会の「定本久生十蘭全集」で一気に改善された。

それ以外にも復刊を含めて単行本の出版は多い方の作家だが、代表作に限られる事は仕方はない。

ジャンルが広く、内容が多岐に渡る作者なので一部では理解出来ず、作品毎の好き嫌いが多くとも仕方はない。

戦後の昭和27年の長編「十字街」は、戦中の戦争題材の作品と未完作の多い時期から漸く抜けた時の作品だが、55才で死んだ事で晩年の作品となった。

「十字街」はフランスに題材をとった作品の一つで、1930年頃のフランスの疑惑事件を舞台に複数の日本人が巻き込まれる。

2つの戦争の間の政治不安定時期であり、作者が度々題材にしている。

同じ題材を複数の作品に使用するのは、この作者の特徴のようだが、読者としては悩ましい事だ。

登場する日本人は貧乏留学生となっているが、その時代に留学した身分は想像しにくい、実際に生活振りは遊び人に見える。

冒険サスペンスの内容であり、歴史小説であり、伝奇小説でもある。

(2020/06/02)

「島田荘司「ロシア幽霊軍艦事件」」

短篇小説の長編小説化は昔から度々行われている。

島田荘司は、既発表作の改稿を多く行っており、改稿版や完全版や改訂完全版とつく出版も幾つかある。

個々の作者の考え方もあり是非は疑問だが、最新・最後版が後に流布してゆく筈だ。

「ロシア幽霊軍艦事件」は長めの短篇として、最初に読んだ。

その後に大幅に加筆されて長めの長編となった。

そこではロシア・ロマノフ王朝の滅亡の歴史を背景に、その末娘が生き延びて数奇な運命を辿る伝説がある。

その王女が日本に来て、後にアメリカで自分が王女だと主張して、嘘か真実かが議論になった事件が描かれる。

アメリカでの事件はそれを追う研究者?が登場して語る、その相手は御手洗と石岡だ。

王女を乗せたロシアの幽霊軍艦が、箱根の湖にあらわれた謎を御手洗が解き明かす。

(2020/06/12)

「永井するみ「隣人」」

永井するみは、1995年頃から作品を発表したが2010年に死去して、活動は中断の形で終わった。

15年間に、約20作の長編と、10冊未満の作品集がある。

死後も幾つかの作品は現役で残っているし、復刊も幾つかは行われているが、それ以外は古書を探す事になる。

公募新人賞絡みでデビューしており、短篇「瑠璃光寺」「隣人」があり、長編「枯れ蔵」が該当する。

作品集「隣人」は、「小説推理新人賞」の表題作を含む6作からなる連作でない短篇集だ。

作品は日常の謎やサスペンスが中心であり、加害者や被害者や関係者の視線や心情から出来事を描いている。

意外な結末を用意する作品が多く、サスペンスタッチな展開の結末として効果があるのが特徴だろう。

長編はテーマを持たせた作品だと思う。

(2020/06/22)