古書日記(2020/08)

「西村京太郎「宗谷本線殺人事件」」

西村京太郎のキャリアは長いが、特に十津川警部を主人公にしたシリーズ作品は多い。

特に「寝台特急殺人事件」からの鉄道トラベルミステリーで人気が一気に出た。

「終着駅殺人事件」の日本推理作家協会賞受賞を経て、膨大な作品を書き継いで来た。

作品数が多い理由として、十津川シリーズ内でのシリーズ化が行われている事がある。

たとえば「東京駅殺人事件」「京都駅殺人事件」「札幌駅殺人事件」等の駅シリーズがある。

列車シリーズがあり、「特急」シリーズや「寝台特急」シリーズ等がある。

その中に「本線」シリーズがありその第一作が「宗谷本線殺人事件」であり「紀勢本線殺人事件」へと続く。

小説では東京と離れていても幾度か往復する事になる、旅情・トラベルミステリでも途中の行程は描かれない。

(2020/08/01)

「島田荘司編「21世紀本格」」

島田荘司編の「21世紀本格」は2001年に出版されたオリジナルアンソロジーだ。

編者の「執筆依頼状」が巻頭に配置されており、そこでは21世紀の本格ミステリの方向ずけを目指している。

原稿用紙200枚の制限は中編のアンソロジーとなり、分厚い本となった。

8作者の中編が並んでおり量的に異色のアンソロジーだが、科学・特に脳科学を視野に入れた作品が目立つことにもなった。

テーマに制限はなく、個々の作者の考え方が集まった結果であり、反対を向いた作品もある。

作者は、響堂新・島田荘司・瀬名秀明・柄刀一・氷川透・松尾詩朗・麻耶雄高・森博嗣だ。

発表作が少ない作者も混ざっており、しかも作品的に珍しい内容のものも含まれている。

現在では書き下ろしのオリジナルのアンソロジーの企画が毎年出版されており、この形式が増えるのが21世紀なのかもしれない。

ジャンルを設定し、編者が作者を決めて内容はある程度自由に集める、個々の作者では新しい作品傾向が生まれる可能性も高い。

(2020/08/12)

「東川篤哉「中途半端な密室」」

1980年代から2000年代にかけて、公募本格ミステリ短篇を集めたアンソロジーが編まれた文庫の出版があった。

過去には雑誌「宝石」で戦後の昭和20年代にもあった。

アマチュア作家が中心だが、そこからプロ作家が複数生まれた。

文庫での出版だが、扱いは雑誌と同じで、多数派は以降は古書のみで読むことが可能だ。

ただしプロになった作者は、個人作品集・短篇集として単行本化する機会も生まれた。

東川篤哉もその一人で、常連投稿者>常連採用者を経てプロ作家デビューとなった。

複数本を出版後に、短篇集を組む時にアマチュア時代の作品も再録する事となった。

本書は、デビュー前後の頃の作品ばかりを集めた作品集となった。

(2020/08/21)

「小杉健治「不遜な容疑者たち」」

1997年刊行で2000年文庫化された、そして2020年に増刷された。

弁護士・梶原藤子が活躍する連作集だが、テレビドラマ化された事で20年振りに復刊気味に増刷された。

作者の主要なキャラクターではなく、短篇連作集であり変則的なスタイルを取る。

法廷場面は無く、国選弁護士のひとつ前に、知識のない容疑者に警察取調べへの対応を教える役目だ。

面会した容疑者は多様だが、本作ではいずれも不遜・・・怪しげ・思惑がある。

主人公弁護士は、振り回されしばしば利用される事になるが、落ち込みながらも対応してゆく。

事件を通して知り合ったライターからの情報を含め、隠された事情に気づいて行く。

個人の捜査を描く捜査小説で意外な展開も多いが、立場上で公式的な警察ドラマ展開とは異なる。

(2020/08/31)