古書日記(2020/09)

「小池滋「英国鉄道物語」」

1979年に初版が出た題名通りの本だ。

1章:「イギリスの鉄道の発達と文学」、2章:「ロンドンのターミナル」、3章:「ロンドンの地下鉄」、

そして4章が「鉄道と推理小説」となっている。

著者曰く「学術論文は客観的で考証が多すぎて専門家以外には面白くない。正反対のマニアの主観的なものは一般読者を締め出す」。

「中間の完璧だが適度の個性を持ち、一般読者も誘い込む。」19世紀のイギリス文学が専門の著者がその頃に生まれた鉄道を語る。

イギリスの鉄道と生活との関係を描く事を目的としている。

その中で「文学にあらわれた地下鉄」があり、次ぎに「鉄道と推理小説」が登場する。

内容は「推理小説と科学的思考」「客車の構造」「客車の中の密室」「時刻表のトリック」「時刻表の迷宮」「鉄道探偵の登場」「ドイルと鉄道」「地下鉄と推理小説」となる。

著者は鉄道ミステリのアンソロジーを編んでおり、その登場作品は本書の内容ともリンクしている。

(2020/09/10)

「島田一男「箱根地獄谷殺人」」

島田一男は戦後直ぐ(昭和20年)のデビューで、以降にコンスタントに沢山の作品を書いた。

現役時代は、絶えず新作が書店に並んでいたが、後期には初期の復刊もいくつか行われた。

1990年前後に天山文庫から継続的に、デビューから初期の作品が復刊された。

今では初出本と同様に、その文庫版の復刊も古書でのみ入手出来る。

「箱根地獄谷殺人」はその最初に当たる1冊で、原題「犯罪山脈・の加筆改題とされている。

復刊文庫に作者があとがきを書いている。

「記者時代にわたしは主として社会部を担当していたが、時々地方の支社に廻された経験があった。」

「この物語は『事件記者』のの試作品といってよいだろう。」

「当時は本格物が主流であったため、シリーズは全て本格物として書いたつもりである。」

(2020/09/20)

「笹沢佐保「地獄の辰捕物控」」

笹沢佐保の作品は多いが、その中には時代小説も多い。

時代小説でもミステリの手法を取り入れた作品が多いのも特徴だろう。

主人公のキャラクターを工夫しており、本作の地獄の辰こと辰五郎も異様な設定だ。

暗い過去に加えて、物語でのマイナス体験が重なって、主人公の暗さと虚無感が深くなる。

主人公は作品数が増えると次第に安定する傾向が多いが、地獄の辰は反対に不安定さが増す。

時代小説には捕物帳が含まれる、また剣豪小説があり、股旅物があり、アウトロー物もある。

地獄の辰捕物控は、複数冊あるが、1冊ごとに展開がかなり変わり、結果的に時代小説に多数の要素を取り込んだシリーズとなっている。

(2020/09/30)