「大坪砂男「閑雅な殺人」」
大坪砂男は第二次大戦後にデビューして、探偵作家クラブ賞を受賞した事で知名度はあるが、活動は短い。
長編が無く、活動期に3冊の短編集を出したのみだ。
その1冊が「閑雅な殺人」で短編15作が収録されている、いずれも短い作品だ。
没後に「天狗」と「零人」の2冊の短編が出版されてほぼ全集に近い。
それは以降に復刊されたし、文庫版もそれぞれ異なる出版社から出た。
短編集2冊のみで没後に3度出版は、復刊率が高く、それは不思議とも言える。
文章に凝りすぎて作品が書けなくなったとも言われ、ファンもいたようだが、今は理解しずらくなった。
(2021/03/10)
「木々高太郎「熊笹にかくれて」」
木々高太郎は活動期間も長く戦前から戦後までで、作品も多い。
理論家であり、理想とする小説を語り、江戸川乱歩や甲賀三郎と議論した。
理論だけでなく、理想を実作で目指したが、それは難しかった。
初期から、大心池先生を探偵役にして、作品に医学知識を盛り込んだ。
戦後は人間の本質を描く事を提唱して、本作もその1つだった。
昭和33年の桃源社の書きおろしシリーズの1作で、正方形に近い特異な形状の本だ。
やはり大心池が登場して、裁判が終わった事件を再調査する事になる。
日本探偵小説全集では常連だが、近年の復刊に関しては少ない。
戦前の幻想怪奇とロマン、戦後の本格志向とは異なる路線とも言える。
(2021/03/20)
「クレイトン・ロースン「首のない女」」
クレイトン・ロースンは、日本でも不可能犯罪・密室事件を扱う作家として有名だ。
だがもう一人のディクスン・カーと較べると、作品数は極端に少ない。
長編4作と、短編集が僅かだけで少なく、日本へも全て紹介されてはいるがすくない。
「首のない女」は第3長編であり、1958年に日本でも出版され後に文庫化された。
その後は絶版状態であり読むには古書を探す必要があった、漸く近年に新訳が出ている。
登場する探偵役のマーリニは奇術家であり、奇術関連商品を売る店を開いている。
「首のない女」とは奇術の名称であり、奇術店でその種と道具を売っている。
小説中でもその説明がされている、それを始めとして小説中に奇術趣味の趣向が満載されている。
そして、ロースンの小説とトリックもまた奇術趣味と発想による物だと言われている。
(2021/03/30)