「山尾悠子「仮面物語」」
2021年に「夜想#山尾悠子」が出版されて、一時は幻の作家と呼ばれた山尾も情報が増えてきた。
初作品集は1978年の「夢の棲む街」であり、初長編は1980年の「仮面物語」だが、1983年以降は出版が途絶えた。
2000年の「山尾悠子作品集成」が出て、それ以降は断続的に作品が発表されている。
1970年代後半の雑誌「奇想天外」でSFに入った私は、「破壊王」の連作を楽しんだが3作で途切れた。
その後に出版された「仮面物語」は私には難しい幻想小説に感じた。
「山尾悠子作品集成」では「破壊王」は短編「繭」を加えて完結の形を取ったが、「仮面物語」は省かれた(中編「ゴーレム」になったのか)。
「仮面物語」は副題が「或いは鏡の王国の記」で、小松左京の推薦帯と、著者近影のついたカバーと、荒巻義雄の解説が付いた、書き下ろしだ。
小松や荒巻の文を読むと、既に平均的なSFではなく特異な幻想世界を描く事が判るが、「夜想#山尾悠子」では多くの人がそれに関して述べている。
(2021/08/07)
「戸板康二「団十郎切腹事件」」
戸板康二は劇評論家・歌舞伎評論家だが、1958年に江戸川乱歩の勧めでミステリーを書き始めた。
短編「車引殺人事件」は歌舞伎俳優・中村雅楽を探偵役としたミステリで、以降長く書き継がれた。
同名の短編集を始めてとして、複数の短編集が出たが収録作品の重複等もある。
1959年にそのシリーズの短編「団十郎切腹事件」で直木賞を受賞した。
文庫版「団十郎切腹事件」は1981年の出版だが、作者の後記と小泉喜美子の解説が付いていて、注目の本だ。
初期作品には「事件」の題名がついており、戸板はヴァン・ダインの真似であり、これ以降は付けていないと書いている。
初登場で既に老優だった雅楽は、その後も年を取らずに30年間登場している。
1976年にはシリーズの「グリーン車の子供」で日本推理作家協会賞を受賞している。
シリーズには歌舞伎ミステリーが多いが、「団十郎切腹事件」は歴史ミステリーであり、日常の謎と呼ばれるジャンルの作品も多い。
(2021/08/18)
「「宝石推理小説傑作選」全3巻」
推理小説専門誌の雑誌・宝石は18年間に250冊以上刊行された。
戦後の推理小説雑誌の代表と言える、戦後すぐに横溝正史の本格ミステリーを連載し、また新人賞の公募を行って、人気を博した。
昭和30年代にはいり経営が悪化したが、途中に江戸川乱歩が編集に参加して立て直しを図った。
昭和30年代後半になり、ジャンルと雑誌の多様化が起きた事や、乱歩が病気になった事で経営悪化により終刊となった。
多数の名作の発表の場となった事から、掲載作はアンソロジーや復刊の対象となって来た。
「宝石推理小説傑作選」全3巻は昭和49年に刊行されたアンソロジーで、3巻1セットで27000円という豪華本だ。
金箔の装丁が目立ち、「宝石」の表紙をカラーで収録している、ページ数も多く収録短編数も多い。
第1巻の最初に横溝正史の「序」があり、そこには横溝の墨書き署名と捺印がある。
収録作は知名度の高い作者の代表作が多い事は当然だが、作家数が多い事から全てがそうだとも言えない。
ジャンルも雑誌に掲載された作品から広く選んでおり、SFを含めて広いジャンルだと言える。
(2021/08/27)