古書日記(2021/11)

「陳舜臣「割れる」」

陳舜臣は1961年に公募の江戸川乱歩賞受賞作「枯草の根」でデビューした。

デビュー作は神戸を舞台に中国人の陶展文が探偵役の本格ミステリであり、初期にはそのシリーズが主体だ。

その後もミステリを書いたが、並行して大作の「阿片戦争」の歴史小説を書いた。

1970年頃から歴史小説が増えて、ノンフィクションや中国やシルクロードを描いた作品が増えて行く。

活動は多様であったが、作品数も多く、ミステリも多数書いた。

「割れる」は陶展文が登場するシリーズであり、1962年にハヤカワ「日本ミステリ・シリーズ」と題する叢書の9巻目として出版された。

時刻表を含めたアリバイくずしの本格ミステリ長編であり、ノベルスよりも若干大きいサイズの箱入りハードカバーだ。

作者あとがきで「楽しく書けた」と述べられている。

(2021/11/05)

「小泉喜美子「弁護側の証人」」

小泉喜美子は1959年のデビューで、翻訳とエッセイと共に小説を発表した。

クレイグ・ライスのミステリの翻訳を代表に、多数の翻訳を行っており、こちらが馴染みの人も多い。

長編は「弁護側の証人」から「ダイナマイト円舞曲」「血の季節」等の5作ある。

歌舞伎も詳しく、それを題材にした小説やエッセイがある。

デビューは社会派が登場して来た時期だが、作風はそれとは無縁であり、ミステリーを楽しむ姿勢が強い。

それは洒落た小説とか、都会的な小説とか呼ばれる事があり、近年でも復刊される事が多い。

保有する「弁護側の証人」はポケット文春と呼ばれるノベルス版だ。

そこには高木彬光「小泉さんのこと」が掲載されて、公募中編から長編「弁護側の証人」が生まれるまでの事が書かれている。

カバーに著者近影とインタビュー的な作者の言葉が載っている。

(2021/11/15)

福永武彦「加田伶太郎全集」

ミステリー作家・加田伶太郎が、福永武彦のペンネームである事は今では広く知られている。

福永は昭和27年から純文学や詩を書き始めているが、並行して加田名義で昭和31年からミステリを発表した。

第1作品集は加田名義で発表したが、正体は公然の秘密だったとされていた、また別名義でSFも書いた

その後の作品の加えて、昭和45年に福永名義で「加田伶太郎全集」にまとめた。

その解説で都筑道夫は、「加田作品は黄金時代のミステリから現代ミステリに移行する箱庭として、歴史上で重要」と述べた。

福永自身は「素人探偵誕生記」を書いて、自作を語っている。

昭和49年の「福永武彦全小説」の第5巻はこれらを全て掲載して「加田伶太郎全集」として出版された。

箱入りの豪華本であり、附録には「「完全犯罪」序」、「作者を探す三人の登場人物」、「加田伶太郎全集」序」と書誌がある。

また月報6として、平野謙・結城昌治・都筑道夫が加田論を展開しており、見逃せない。

(2021/11/25)