古書日記(2022/02)

「海渡英祐「咸臨丸風雲録」」

海渡英祐は1960年にデビューしたが、1967年の「ベルリン---1888年」で江戸川乱歩賞受賞で有名となった。

本格推理を中心にしていたが、作風は多彩であり、スパイ小説、競馬小説、ユーモア小説等も書いた。

乱歩賞作はドイツを舞台にして、森林太郎(鴎外)が留学先で探偵になり他にも歴史上の人物が登場する歴史ミステリだった。

1977年頃から再度、歴史ミステリを書き始めて、複数作を書きさらには明治が舞台の捕物帳も書いた。

「咸臨丸風雲録」は1983年の作品で、江戸末期の咸臨丸の太平洋横断航海を舞台にしてそこでの殺人等の事件が描かれる。

勝海舟や福沢諭吉ら多数の歴史上の人物が登場する、本格であり航海冒険をも描く、歴史ミステリだ。

本は、当時主流とも言われた新書版で、作者の言葉と写真がカバーにあり、本文中に船や人物画の絵の写しのイラストがある。

(2022/02/03)

「佐々木丸美「雪の断章」」

佐々木丸美は北海道在住で、その地を中心に、中央には来ずに作品を発表した。

作品数はそれ程多くはないが、書き下ろし長編を中心に発表した。

「雪の断章」はデビュー作で、孤児の少女が5歳から成人になるまでを1人称で描いた。

その経験からか情緒不安定なのか、思い込みが激しいだけなのか揺れ動く主人公の心理状態が表面に出る。

その内容はミステリなのかサスペンスなのか、幻想小説なのか読者に委ねられた。

初出本には作者のあとがきがあるが、それ自体が幻想的な内容で書かれている。

それを含めて、何故かバッシングを受けてしまい、その後は本文以外を語らなくなった事は残念だった。

感情が不安定な1人称でその立場から解き明かした謎は正しいか、今では本格の大きなテーマだ。

当時は、理解されたとは言い難い、その後は幻想とSFの世界へ進んでいった

(2022/02/13)

「昭和国民文学全集第19巻」

「昭和国民文学全集」は昭和40年代後半から出版された全集で、大衆文学の全集だ。

収録作者の代表作を集めているので、好きな作者はほぼ既読だが、それ以外の作者は入門に向いているだろう。

時代小説の比重が高いのが特徴であり、探偵小説は35巻中の5巻だ。

第18巻:江戸川乱歩、第19巻:小栗・木々、第20巻:大下・高木、第21巻、横溝、第22巻:夢野・久生・橘。

第19巻では小栗虫太郎は「黒死館殺人事件」が収録される。

木々高太郎は、「わが女学生時代の罪」に加えて短編2作が収録されている。

澁澤龍彦の解説があり、むしろこちらがこの巻での読みどころとも言える。

小栗と国死館殺人事件へも思いが濃く現れており、木々についてはやや冷静な視点に感じる。

(2022/02/23)