「横溝正史「白と黒」」
横溝正史は第二次世界大戦後に作風を本格ミステリに変えて、多数の作品を発表した。
だが長編「悪魔の手鞠唄」以降は発表が少なくなり、その中で出たのが「白と黒」だった。
だが「白と黒」の後は「仮面舞踏会」は中絶して、その後の1970年代の横溝正史ブームまで途絶える。
「白と黒」は東都ミステリ叢書で、本の厚さが他の倍程度ある、中は2段組で原稿用紙1100枚の大作だった。
当時は横溝の最長作だった、後に「病院坂の首くくりの家」「悪霊島」が書かれている。
本書は作者あとがきと、カバーに作者近影と紹介があり、さらに高木彬光の短文がある。
作者は「都会を舞台にしたもので、しかも本格の骨格を備えたものを書きたい」事が執筆動機としている。
金田一耕助と等々力警部に加えて、S.Y先生も登場する。
(2022/10/01)
「笹沢左保「泡の女」」
笹沢左保は、1958年にミステリ界にデビューして、直ぐに本格推理作を書いた。
次第に作風を広げて行き、膨大な作品を書いた。
「泡の女」は東都ミステリの1冊で1961年の発表だ。
本文と作者のあとがきがあり、カバーに作者の紹介と写真がある。
カバーに佐野洋の短文があり、作者名が佐保から左保に少し前に変わった事が判る。
「あとがき」で、「本格長編には、ムードが欠けているので、実験的に暗いトーンで貫いた」としている。
笹沢が提唱した、本格推理とロマンの融合の実験作の位置ずけだ。
(2022/10/11)
「小島直記「隠れた顔」」
小島直記は学生時代から同人誌に参加し、就職後に芥川賞候補にもなり、その後作家専業となった。
そのジャンルとしては、企業情報小説とか伝記小説とか呼ばれた。
1967年の「小説三井物産」や1975年の「古典からのメッセージ」等が、シリーズとなった。
「隠れた顔」は1961年に東都ミステリ叢書の1作として出版された。
作者のあとがきと、帯に作者紹介と写真があり、帯に渡辺啓助の文がある。
その作者紹介によると、小島は学生時代から渡辺の薫陶を受けて小説を書き、受験雑誌の懸賞小説に入選したと言う。
推理小説も書いたが、内容は資本主義経済の中を舞台にして、社内の人間関係や、同族内の問題や、同業者内の問題を描いた。
従って、サスペンスであり、主人公に訪れる悲劇や破滅が描かれる事が多い。
。
(2022/10/21)
「飛鳥高「虚ろな車」」
飛鳥高は戦後直ぐにデビューした兼業ミステリ作家だ。
長編を11作発表したが、推理作家協会賞の「細い赤い糸」以外は復刊も文庫化も殆ど縁が無かった。
だが、近年に「飛鳥高探偵小説集成」が6作刊行されて、ほぼ全ての短編と数作の長編が復刊された。
「虚ろな車」は1962年に東都ミステリ叢書の1作として出版された、復刊はされていない。
作者のあとがきと、帯に作者紹介と写真があり、帯に江戸川乱歩の文がある。
そこでは本格、本格的作風、科学的小説等の言葉がある。
だが、飛鳥作品の多くはサスペンスであり、「虚ろな車」も同様だ。
犯行を狙う2人と、疑う記者と、事件を追う刑事らの、複数の視点から交互に描かれる。
技巧的な叙述を凝らしたサスペンスだ。
(2022/10/31)