「高木彬光「破戒裁判」」
高木彬光は。1947年に長編「刺青殺人事件」でデビューして、短期間で本格ミステリの代表的な作家となった。
名探偵役の主人公が活躍する作品が主体であり、シリーズとして発表した。
「破戒裁判」は東都ミステリ叢書で、1961年に叢書の第1作目として刊行された。
主人公は弁護士・百谷泉一郎であり、さらにはその殆どが法廷でのみ展開する特長がある。
本書は詳細な作者あとがきがあり、そこでは「小説のモデルについて、法廷小説について、元になる短編の長編化について、作品への想いについて、等」が書かれている。
カバーに作者近影と紹介がある、初期のこの叢書には作者以外の短文はない。
作者は「裁判記録ではないが、法律・訴訟手続きについては正確に現行に従った」としている。
それは本作の魅力でもある、だがその後に裁判員裁判が始まり、審議の短期化と判り易さの為に、裁判前の事前打ち合わせで原告と被告側が資料と証拠と意見を出しあう事になっている。そこでは法廷でいきなりサプライズ的な証拠や意見を出す事は現在では出来ない。
本作は発表当時の裁判制度の下で展開した法廷ミステリであり、現在の目では特殊設定的な意味もある。
(2022/11/10)
「左右田謙「県立S高校事件」」
左右田謙は、1950年に角田実名義でミステリ界にデビューしてミステリや伝奇時代小説を書いた。
角田名義では、短編と中編中心で20作を越える。
1961年に筆名を左右田謙に変えて、東都ミステリの1冊として「県立A高校事件」を書いた。
本文と作者のあとがきがあり、カバーに作者の紹介と写真があり筆名変更についても紹介されている。
カバーに江戸川乱歩の短文があり、ここでも作者名変更とそれによる期待を、鮎川・多岐川の名を出して述べている。
「あとがき」で、「本格学校推理小説を書きたい」としている。
本作はその後「殺人ごっこ」と改題された。
(2022/11/20)
「樹下太郎「石の林」」
樹下太郎は第二次大戦後に書きはじめ、昭和33年に応募作品が掲載されミステリ作品を発表した。
叙述手法や視点の工夫を駆使してサスペンスや犯罪小説を発表した。
会社員を主人公にして、会社内の人間と人間関係を中心に描いた。
「石の林」は1961年に東都ミステリ叢書の1作として出版された。
作者のあとがきと、カバーに作者紹介と写真があり、カバーに水上勉の文がある。
作者は複雑な人間関係の中で、古いものさしでは測り切れなく、ものさしは多数あるとしている。
主人公は出世コースに乗っているが、そこに複数のトラブルが降りかかる。
サスペンス的な展開は、意外な展開を見せる、視点の切り替えはそれを加速する。
作者はこの後から次第にミステリを離れて、サラリーマン小説と呼ばれる作品群やユーモア小説に移って行く。
(2022/11/30)