「海渡英祐「極東特派員」」
海渡英祐は大学中から執筆活動を初めて、1935年の大学卒業後にも続いた。
「極東特派員」は1961年に東都ミステリ叢書として出版されたが、長編のデビュー作となった。
その後の1967年に「伯林--1888年」で江戸川乱歩賞を受賞した、歴史ミステリだ。
その後には本格推理や、連作シリーズを書き、歴史ミステリも多い。
「極東特派員」は本文と作者の「あとがき」があり、さらにカバーに作者紹介と写真がある。
京城暴動事件からはじまり、台湾での蒋介石暗殺未遂事件まで架空の事件を描いた。
実名の知名人も多く登場するが、フィクションのスパイ小説・ミステリ小説だ。
あとがきで「格調の高いスパイ小説を書いてみたい(中略)、まだ日本では未開拓の分野に手をつけた(後略)」と述べた。
東都ミステリでは新人や初ミステリ作がいくつかあるが、本作も当時はそれに該当した。
(2023/03/10)
「島田一男「待避線」」
島田一男は1946年に雑誌「宝石」の短編コンクールでデビューして、人気作家となった。
シリーズ作品も多く、東都ミステリには鉄道公安官シリーズを3冊発表した。
長編「待避線」は1962年に東都ミスステリ叢書の1冊として発表され、「終着駅」の次の作品だ。
鉄道公安官の海堂次郎が主人公で、「スイッチ・バック」「待避線の狼」の2作からなる。
本書は作者あとがきと、カバーに作者近影と紹介があり、さらに角田喜久雄の短文がある。
作者は後書きで「鉄道公安官シリーズは、1-3話は雑誌読切中編で、4-8話は地方新聞の連載小説として書いた。」
さらに「本書はその6-7話を収めた。はじめの3編は本格的で、4話以降はアクション的だ」と言う。
さらには9話を書き、10話以降も予定がありその舞台の線区名も予告している。
角田は「島田は旅行好きで歩いて調査する。それが生かされている」と紹介している。
(2023/03/20)
「南部きみ子「乳色の墓標」」
南部きみ子は1958年デビューで、「流氷の街」や「青い遠景」を発表した。
1961年の本作と、1962年の「砕かれた女」を発表して、南部樹未子名義に変えた。
「乳色の墓標」は東都ミステリに書かれた。
作者のあとがきと、カバーに作者紹介と写真がある。
あとがきで「女は心に悪魔を飼っている。事が起きると悪魔が命令して、女は罪を犯す」
「ミステリーとしての面白さを保ち、同時に愛情の相克から殺人の終着駅に引きずられていく。」とした
そして、本作が初の長編ミステリーであるともしている。
作者は、この後も心理ミステリーと非ミステリを書いて行く。
(2023/03/30)