古書日記(2023/04)

「水芦光子「贋」」

水芦光子は1952年頃から、詩集・戯曲と小説を執筆している。

その作品はミステリーと異なるが、雑誌「宝石」の短編と、本作はステリとも言われている。

「贋」は1962年に東都ミステリ叢書として出版されたが、唯一のミステリ長編となった。

「贋」は本文と作者の「あとがき」があり、さらにカバーに作者紹介と写真がある。

カバーには小松伸六による短文があり、本作について語っている。

あとがきで「推理小説はあまり読んでいない(中略)、推理と詩は結びつく(後略)」と述べた。

本作は、三好春名江の手記、田沼房子の手記、柿崎四郎の手記で構成されて、詐欺師と女性らの絡みを描いた。

犯罪小説、心理サスペンス等だと紹介されている。

東都ミステリでは新人や初ミステリ作も多いが、本作もそれに該当する。

(2023/04/09)

「都筑道夫「猫の舌に釘をうて」」

都筑道夫はライター、翻訳家として活躍し、その後に雑誌編集長となり、1961年に作家となった。

作家デビューの前にも多数の著作があるが、多数の名義が使われている。

長編「猫の舌に釘をうて」は1912年に東都ミスステリ叢書の1冊として発表された。

作者は、この時期はミステリ小説の多様な可能性に挑戦していて、アクロバティックな作品が多い。

本書は作者あとがきはなく、カバーに作者近影と無記名の「読者への警告」がある。

その警告で「推理作家は一度はコチコチの本格を書きたくなる。」としてさらに「読者への挑戦状もある」とされる

だが直ぐ後に「推理作家は嘘をつくにが商売。せいぜい眉に唾をつけてお読みください」と書いている。

小説の束見本として書かれており、白紙のページや半分が白紙のページが含まれえいる。

作者はその後に、多数のシリーズ作と長編を書いているが、この時期の特異な作品群は愛好家は多い。

(2023/04/19)

「鮎川哲也「黒いトランク」」

鮎川哲也は1948年に別名義でデビューしたが、1956年の「黒いトランク」以降は鮎川名義を使用した。

「黒いトランク」は講談社書下ろし長編探偵小説全集」の13巻の公募に応募して選ばれた。

この全集は黒い箱いりで、金色の装丁のハードカバーだ。

「黒いトランク」は作者の写真と「私の近況」の短文と、参考地図及び時刻表がある。

さらに「書下し長編小説全集第13巻(当選作)選考経過について」があり、予選13作と選考委員会3作からの選考が書かれている。

選考内容は記述は少ないが、江戸川乱歩が推して、木々高太郎が難色を示したとの、よく見るパターンのようだ。

「私の近況」では近況と共に「由来推理小説の道は困難であると言われているが、(中略)無限大の彼方のゴールを目指して、ひたはしりに走りつづけてゆく覚悟でいる。」と書かれている。

「黒いトランク」は幾度か復刊されたが作者は改稿を行い、ファンでの話題になった。

後に2002年に創元推理文庫と光文社文庫で復刊されたが、基本にした版が異なり、目次を含めて異なる部分がありファンも驚いた。

(2023/04/29)