古書日記(2024/03)

「仁木悦子「冷え切った街」」

仁木悦子「冷え切った街」は、1971年に講談社から書下ろしで出版された。

「乱歩賞作家書下しシリーズ」の第二回配本で、藤村正太と同時に出版された。

ソフトカバーで、松本清張の企画の帯文があり、本文に中島河太郎の「仁木悦子氏素描」がある。

仁木の探偵役のキャラクターの一人も三影潤が主人公のシリーズの中の、唯一の長編だ。

このシリーズは、主人公の探偵の一人称で書かれていて、それはハードボイルドスタイルとも呼ばれる。

ホームズ役とワトソン役を兼ねた主人公になる。

内容はいつもと同様の本格ミステリであり、謎解きミステリだ。

三影シリーズは短編は数も多く、死去の直前まで書き継がれたシリーズだ。

仁木兄妹シリーズが、年齢が成長するシリーズに対して、三影シリーズは同じ年齢で書き継がれている。

(2024/03/04)

「仁木悦子「灯らない窓」」

仁木悦子「灯らない窓」は、1974年に講談社から出版された、仁木の第9長編だ。

「推理小説特別書下し」叢書の1冊で、変形ハードカバーで箱入りだ。

平和な筈の篠田一家が、事件に巻きこまれてゆく、その顛末が、父と息子の一人称視点から交互に描かれる。

箱にあらすじと、仁木悦子の言葉がある。

そこで仁木は「一人称で書きながら、しかし二つの方向から事件をみていく。(中略)同じ現象にぶつかっても、受け取り方は大人と子供でかなり異なる。」と書いている。

意欲的な一人称視点の長編だった。

だが、この頃から仁木の長編の執筆が少なくなってくる。

(2024/03/14)

「仁木悦子「青じろい季節」」

仁木悦子「青じろい季節」は毎日新聞社から1975年に出版された。

叢書では無いが、このころそこから継続的に推理小説が出版されていた。

ハードカバー単行本でカバー付きだが、シンプルな本文のみの本だ。

本作の主人公の砂村朝人は、翻訳工房を切り盛りする翻訳家で、珍しい職業を描く。

仁木の夫・後藤安彦は翻訳家であり、ミステリーの翻訳もあり、仁木がその分野も詳しいようだ。

事務担当として登場する淡井貞子と息子については、後に天藤真が仁木の了解のもとで、作品集「遠きに目ありて」を書いた。

それはバイキャラクターが、他の作家で主人公になった訳であり、珍しい。そこでは女流ミステリ作家も登場する。

(2024/03/24)