古書日記(2025/03)

「天藤真「大誘拐」」

天藤真「大誘拐」は、1978年にカイガイ出版部から出版された。

「大誘拐」は天藤の第8長編であり、やや小ぶりのソフトカバーだ。

「大誘拐」は、カバーに写真があり、さらには中島河太郎の「奇想天外な誘拐大作戦」と題する紹介文がある。

さらには帯にも紹介文があり、そこでは「シャドー81 を彷彿させる快作である」と紹介されている。

天藤真は本作で日本推理作家協会賞を受賞して、代表作となり、文庫を中心に復刊された。

知名度が上がったことでのちに「老女がリーダーで繰り広げる誘拐の設定が、別の映画の前例がある」と報じられた。

マイナーな映画であったが、天藤真は、しばらく後でその映画を見ることがあり、全く別内容であると知ったと、書いている。

(2025/03/14)

「天藤真「善人たちの夜」」

天藤真「善人たちの夜」は、1980年に徳間書店から出版された。

「善人たちの夜」は、天藤の第9長編であり、ノベルス版で、カバーに著者の写真と紹介の短文がある。

「大誘拐」で日本推理作家協会賞を受賞した後の出版ということで、帯に「大誘拐」の受賞作としての紹介広告がある。

本作はユーモアミステリであり、主人公の森井みどりが婚約者・早川の友人・大羽弥太郎に頼まれて、弥太郎の婚約者になりすましてその家族に会いに行く。

死ぬ間際に嫁に一目会いたいという父親の望みからだったが、奇跡的に回復したことで、計画が混乱してゆく。

「善人たちの夜」は1996年に創元推理文庫の天藤真推理小説全集10として復刊されたが、そこでの中島河太郎の解説で、「予定の枚数を超過したため、(中略)私(中島)は思いきって200枚ほでの文章を削除するように進言して、それが刊行された」とした。

そして徳間版の後に、未定稿としておおよその位置を示して削除部分が掲載された、削除の影響で訂正された部分もあり繋がりが不明なところもある。天藤の初稿の長いバージョンを普通の小説の形で読みたいと感じた。

(2025/03/29)

「天藤真・草野唯雄「日曜日は殺しの日」」

天藤真・草野唯雄「日曜日は殺しの日」は、1984年に角川書店から「カドカワ・ノベルス」で出版された。

「日曜日は殺しの日」は天藤の絶筆であり、天藤の指名で友人の草野が書き継いで完成させて、共著で出版された。

「日曜日は殺しの日」はノベルス版で、本文と草野による「あとがき」があり、カバーに紹介文がある。

あとがきで草野は書いている「(前略)、天藤の遺言で原稿が私のところに来た。(中略)原稿は約半分くらいしか出来ていない。もっとも、彼が別に書いたあらすじのようなものはある。(中略)この作品は彼にしては珍しいほどシリアスで、日頃のユーモアが全くといっていいほど影を潜めていたからである。(後略)」。

夫の死で医師に復讐を狙う主人公・小野友季子に対して、交換同時殺人を持ちかけられた。その医師の死で、大滝警部補らの捜査が始まる。

(2025/04/13)

「天藤真「遠きに目ありて」」

天藤真「遠きに目ありて」は、1981年に大和書房から出版された。

「遠きに目ありて」は5話からなる連作集であり、脳性マヒで優れた頭脳を持ちながら、体も言葉も不自由な少年・岩井信一が主人公だ。

ソフトカバーの本で、雑誌「幻影城」に1976/1から1975/5-6に連載された長さが異なる短編から中編までの5作を収録する。

作者は、本書の「あとがき」で主人公・信一に語りかけている、「きみの生みの親は、(中略)仁木悦子さんで『青白い季節」に登場する淡井貞子、勲母子が君たち母子の原型です。仁木さんが言われるように「ひとりの作家のある作品のバイプレーヤーが、ほかの作者の作品の主人公になるという例はほとんどないのではないか」も知れないのですけれども、私には必然の結びつきでした。

(中略)「幻影城』の島崎さんはこの連作に対して、半年間、好きな長さで好きなものを書いていい、という破格の条件を与えてくれたのです。(後略)」

その結果で短編3作に中編、さらに長い中編の構成の連作が書かれた。

優れた頭脳を持ちながら、家に引き篭もる生活を余儀された少年。話すこともわずかに動くにも苦労するが、母親は一時だけそれを助けることの無意味さを言う。第3話ではその少年が犯行現場を見るために出かける、それには車椅子だけでなく車の改造や色々なことが必要だった、ほぼ初めて外に出かける場面が感動的に描かれている。

(2025/04/28)